靴を分解すると見える釘|靴底が剥がれない釘の打ち方
今回はその内の一つ釘。「靴を分解すると見える釘」についてです。
靴を分解すると見える釘
普段目にすることのない釘なのでピンとこないと思いますが、既成の高級革靴の踵部分には、通常片方だけで何十本もの釘が打たれています。
この釘は、靴の耐久性においてなくてはならない存在で、踵にあたる部材と部材を留める役割をしており、この釘の本数や打ち方によってその靴の耐久性が変わります。
こんな経験ありませんか?
低価格で販売されてる紳士靴や婦人靴を履いて、数ヶ月で靴底の踵部分が剥がれてしまった。なんて経験をした人もいるかと思います。
その際は、剥がれた踵を見てください。きっと、打たれてる釘の本数はは0本~数本かと思います。もう一つ付け加えると、打たれてる釘は、靴の中から靴底へ向けて打たれていることと思います。
釘が大切な理由
靴で最も負荷のかかる場所の一つが靴底の踵部分になります。この踵部分の部材は糊と釘のみで留められており、一見靴底に縫いがかかってるように見える靴でも、実は踵部分までは縫いがかかっていません。
故に、糊が劣化してしまうと、釘が打たれてない靴底は剥がれてしまいます。十分な本数の釘が正しく打たれていれば、たとえ糊が劣化しても靴底が剥がれることはありません。
既成靴の釘の本数
靴の製法や仕様によって釘の本数は変わりますが、一つの参考として、既成靴では通常の紳士靴で20~30本程、高級紳士靴は40本程の釘が打たれています。
一方、低価格の紳士靴は、0~10本以下になります。
一例として、次の靴は踵にあたる6つの部材「アッパー・中底・ハチマキ・本底・積み上げ・リフト」全てを4本の釘で留めて作られてます。
4本の釘では必ず靴底が剥がれるわけではありませんが、靴を長く履くことを考えると十分に耐久性が保たれてるとは言えません。
故に、当店では既成靴で打たれてる釘の本数に関わらず、オールソールを施す際には耐久性を十分に保つ釘の本数に変更して釘を打ちます。
オールソールで打つ釘の本数
靴の製法や仕様によっても打つ釘の本数は変わりますが、オールソールでは基本的に40本以上の釘を打つようにしています。
次のオールソールでは54本の釘を打っており、踵にあたる6つの部材「アッパー・中底・ハチマキ・本底・積み上げ・リフト」が、足されてく過程で釘を使い分け打っていきます。
オールソールが完了すると外観からは分かりませんが、その工程を見ると化粧釘以外に54本の釘が打たれています。(左右両方だと108本)
これだけ釘を打つと釘同士ぶつからないの?と思われるかもしれませんが、経験を積んでいくと釘の間隔を覚えるので意外にあたりません。また、当たっても手の感触や音で分かります。
分解すると分かるその靴の価値
余談ですが、今回オールソールをさせていただいた高級紳士靴の代表格であるクロケット&ジョーンズのハンドグレードラインは、私の知る限りどの既成靴を見ても少なくとも50本以上の釘が打たれてます。
靴を分解してみてもクロケット&ジョーンズのハンドグレードラインが長年愛される人気の秘密が分かります。
オールソールの釘の打ち方
釘の本数と共に大切なのが釘の打ち方です。釘の打ち方は、靴の中から靴底へ向けて打つ「中打ち」と、靴の底から靴の中へ向けて打つ「底打ち」の2つがあり、それぞれにメリット、デメリットがあります。
中打ち|靴の中から靴底へ向けて打った釘
既成靴の多くは「中打ち」になります。中打ちは複数の部材を重ねて一気に打つ事ができるので、効率が良くコストも抑えることができます。
一方、中打ちは釘の先端がどこにも当たらないため、釘が真っ直ぐのまま刺さってしまいます。故に、釘と部材が十分に固定されず靴底が浮いてしまう可能性もあります。
底打ち|靴底から靴の中へ向けて打った釘
底打ちでは、靴の中に木型を入れて靴底から靴の中へ向けて釘を打ちます。すると、打った釘が木型の鉄板部分に当たり先端が返されフック状に変形します。
釘の先端が返された釘は部材としっかりと固定されるため靴底が浮いたりすることはありません。
一方、底打ちは技術が求めら、部材が足される度に釘を打って一つ一つの部材をしっかり留めていくので手間がかかりコストも嵩みます。
オールソールで使う釘の種類
オールソールでは、20種類以上の釘を製法や場所によって使い分けます。そして、鉄釘の大半はあえて錆びさせてから打ち込みます。
これは打ち込んだ鉄釘が簡単に抜けないようにするための先の靴職人達の知恵の一つでもあります。