底付師のオールソール工房

昭和三十六年
初代店主 佐藤正利
平成二十三年
二代目店主 村上塁

マグナーニ (オパンケ製法) のオールソール②

次に工具面において
マグナーニ オパンケ仕様のオールソールが難しいと言われる点に
「革包丁」の存在があります。

多くの靴修理職人は工作カッター(一般家庭に1本はあるカッターと同じもの)と

研削機能を備えたフィニッシャーを使用しての修理になりますが
革底というのは5㎜前後の厚みともなると
工作カッターでは、刃が負けてしまいスムーズに動かすことが出来ず
またフィニッシャーは、曲線部を切ったり均一に漉いたり等の精細さが求められる作業は苦手です。
ここで靴の製造職人特有の道具である
「革包丁」の出番となります。

 

「革包丁」は、先の職人方が開発されたとされる日本特有の道具であり
包丁という名の通り私達は、和食の料理人さながら研ぐことから1日が始まります。
人によっては面倒と思うかもしれませんが
包丁が上手く研げるようになれば
毛1本分を削ぐことも
50㎜の厚く積上げた革も
一思いに切り落とすことも可能になります。

 

それは
手掛けた靴の上がりの美しさ
仕事の速さに直結しますので
一度味を覚えてしまえばもう病みつきですねw

 

しかし、包丁を使い物になるレベルまで研ぐには
包丁のクセを見抜く目はもちろん
砥石に対して刃の当てる角度
砥石の番手(粒度)を変えるタイミング
砥石の種類等、を覚えなければなりません。
こればかりは一朝一夕にはいかず、研ぎ手の経験値がモノを言います。
私事で申しますと、星付き店で働く板前の包丁を研いでいる80代現役職人である
「研師(とぎし)」の門戸を叩いて研ぎの基本を御教授頂きました。

 

ですから
常に工作カッターや機械に頼った仕事をする者にとっては、革包丁を多用する必要のあるマグナーニ オパンケ製法の修理は難しくなる訳です。

ミニ知識として
ヨーロッパ圏では包丁の代わりに色々な形状のナイフを使い分けますが
日本の革包丁は持ち方と刃の運び方のみでそれらをまかないます。
海外の靴職人が理に適った日本の革包丁の動きと切れ味を見て
驚嘆とともに大量に購入し、帰国した話もあるぐらいです。

 

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