底付師のオールソール工房

昭和三十六年
初代店主 佐藤正利
平成二十三年
二代目店主 村上塁
靴底の化粧釘

化粧釘|靴底の化粧釘による滑りを抑止する打ち方

オールソール(靴底交換)ではさまざまな工程を経て5~8種類の部材を交換し、釘と糸と糊で部材を留めます。

今回はその内の一つ釘。「化粧釘」についてです。

化粧釘

現代では、靴底の装飾として打たれることが多い化粧釘ですが、打つ場所などにより靴の耐久性を強化することにも一役かっています。

一方、靴底に化粧釘を打つことで釘が床に接触して音が鳴ったり、滑ってしまったなどの経験をされた方もいらっしゃるかと思います。

そのため、化粧釘を打つ際には化粧釘が床に接触して音が鳴ったり、滑ってしまうなどの危険性を低くするための工夫が大切になります。

  1. 革底の化粧釘
  2. ゴム底の化粧釘
  3. 番外編|ヴィンテージの化粧釘

革底の化粧釘

革底の化粧釘は、鉄釘よりも柔らかい真鍮釘を使用し、釘の頭を切り取りヤスリにかけることで、化粧釘による音鳴りや滑りの危険性を低くすることができます。

鉄釘の化粧釘の場合

修理前の化粧釘

金メッキ加工された鉄釘の化粧釘

 

上の写真の化粧釘は、金メッキが剥がれてしまってますが、金メッキ加工された鉄釘です。

硬い鉄釘はリフトと一緒に減りにくく、靴を履いてるうちにリフトがすり減ると釘の頭が出てきてしまいす。

この状態ですと、化粧釘が床にあたって、音が鳴ったり、滑ってしまうなどの危険性があります。

真鍮釘の化粧釘の場合

修理後の化粧釘

釘の頭を取ってヤスリで削った真鍮釘の化粧釘

 

上の写真は真鍮釘の化粧釘です。

靴を履いてるうちにリフトがすり減っても鉄釘よりも柔らかい真鍮釘はリフトと一緒にすり減りやすいので、化粧釘による音鳴りや滑りなどの危険性は低くなります。

1ポイント

真鍮釘の頭を取ってヤスリで削ることで地面に接触する化粧釘の面積が減り、化粧釘による音鳴りや滑りなどの危険性を更に低くすることができます。

余談ですが、ホームセンターに行けば分かりますが、靴にとってはやさしい真鍮釘ですが、お財布にとっては鉄釘の方がやさしいですw

ゴム底の化粧釘

ゴム底の化粧釘は、極細の鉄釘を使用して追い込みをかけることで化粧釘による音鳴りや滑りの危険性を低くすることができます。

追い込みをしてない化粧釘の場合

追込みしてない化粧釘

追い込みをしてない化粧釘

 

上の写真は、追い込みをしてない化粧釘です。

この状態では釘の頭が出てるので、化粧釘が床にあたって音鳴りや滑りの危険性があります。

追い込みをした化粧釘の場合

追い込みした化粧釘

追い込みをした化粧釘

 

上の写真は、追い込みをした化粧釘です。

リフトの中に釘が入ってるので、化粧釘が床に接触することはなく、音鳴りや滑りなどの危険性もありません。

1ポイント

同じ鉄釘でも極細の鉄釘を使うことで、化粧釘を追い込んだところまでリフトがすり減っても、極細の鉄釘の方がリフトと一緒に減りやすいので、化粧釘による音鳴りや滑りの危険性が低くなります。

また、リフトがすり減って追い込んだ化粧釘の頭が見えてきたら、リフト交換の時期が近づいている目安ともなります。

番外編|ヴィンテージの化粧釘

冒頭で現代ではとあえて赤文字で強調しましたが、時代から見る靴底の変化を2足のビンテージシューズから見てみます。

端的に言うと、昔は靴底を守る。現代は安全性を重視。と言った風に変化してきました。

時代から見る靴底の変化

フローシャイム インペリアル|修理前

フローシャイム インペリアル|修理前

 

この靴は、1960~70年代製造のフローシャイム インペリアルシリーズです。

この重厚な靴底は60年代のアメリカッ!て感じでなんとも言えない格好良さがあります。貴重なヴィンテージシューズですね。

持主さまからは、雰囲気を崩さずにとのご要望でしたので、同じように化粧釘を打たせてもらいました。

 

フローシャイム インペリアル|修理後

フローシャイム インペリアル|修理後

 

本物のヴィンテージスチールとヴィンテージの角釘が、いかにも頑丈そうで「俺たちがリフトを守る!!」と主張してるようですw

こちらのフローシャイム インペリアルの修理はまた後日ご紹介させていただきます。

1950年代の靴底から現代の靴底へ

リーガルの子供靴|修理前

子供靴のヴィンテージシューズ|修理前

 

こちらのヴィンテージシューズは1950年代に作られた日本製の子供靴です。

なんとこの靴、ご本人さまが60年以上実際に履かれた靴です。

この時代の革靴といえばビスポークしかなく非常に貴重で高価なものです。しかも子供靴となればなおさらでしょう。

持主さまからは、お孫さんが安全に歩けるようにとのご要望でしたので、化粧釘は控えめに4本。

リフトは半革半ゴムの山形仕様にさせていただきました。

 

子供靴のヴィンテージシューズ|修理後

子供靴のヴィンテージシューズ|修理後

 

時代を象徴するリフトを守るヴィンテージスチールもなくなり現代風の靴底になりました。

昔はリフトにスチールを付けるのが当たり前でしたが、今ではなかなか見ません。

なぜこのように靴底が変化していったのか?理由の一つとして地面の変化が上げられます。

昔の地面と違って現代の地面は整備されており、リフトを守る強固なスチールや化粧釘はむしろ、床を傷つけたり滑ったりしてしまう存在になってしまったからです。

60年前に日本の靴職人の方が作られた靴を、私が修理させてもらい現代の靴底に生まれ変わる。

いずれまた60年後にその時代の靴職人が修理したときには、今とは違うどのような靴底になってるのか?気になるところでもあります。

なお、こちらのヴィンテージシューズのオールーソールは60年前の子供靴のオールソール60年前の子供靴のオールソール|ヴィンテージスチール編
でご紹介させていただいております。

 

アッパー部分に目が奪われがちになりますが、靴底からもまた靴職人やブランドのこだわり、お国柄や時代背景を垣間見ることができます。