底付師のオールソール工房

昭和三十六年
初代店主 佐藤正利
平成二十三年
二代目店主 村上塁

60年前の子供靴の修理|オールソール

image image・60年前の靴

 

大切にしてくれて ありがとう。

 

そう言いたげです。
山口県在住の依頼主様が実際60年前に履いていた日本製子供靴になります。

さすがに当店でもご本人様が実際履き続け60年以上経過している子供靴は珍しく、お問合せの段階では正直革の状態含めかなり不安でした。

けれども

送られてきた実物を拝見しましたら少しの乾燥があるぐらいでそんなに悪くありません…これならきっと依頼主様の想いに応えられるだろうという確信を今でも憶えております。

ハンドソーン(手縫い)によるアウトステッチ

今回の靴はリーガルで時々見られる、別パーツのウェルトが外側に載っている変形型ステッチダウン製法となります。

ステッチダウン製法自体は登山靴などでよく見られる製法ですが、今回の靴で驚かされたのが「アウトステッチ(出縫い)」がハンドソーン(手縫い)によるものだということです。

現在、「アウトステッチ」をハンドソーンで仕上げる靴と言えばビスポークや一部の高級靴ぐらいで、すぐにサイズ感の変化する子供靴に使用することはまず考えられません。

これは戦後の高度経済成長期、靴業界に最も勢いがあった時代、革靴と言えばビスポークであり、店頭での採寸後に手仕事によって作られていた時代の生き字引と言える靴でしょう。

この「アウトステッチ」を手で縫うことになんの意味があるのか時々尋ねられる事がありますが、最も大きいメリットの一つに糸を交差させることが上げられます。

機械で縫う「アウトステッチ」は靴を逆さまにして縫いますのでコバ上に掛かるのがミシン側の下糸、底面に掛かるのがミシン側の上糸であり、上糸と下糸が其々の側に存在することで、何かの拍子に一箇所が切れると解れやすくなります。

一方、ハンドで縫う「アウトステッチ」は一針一針の糸(チャン糸)を交差させながら縫っていきますので何かの拍子にステッチが切れたとしても他ステッチがコバの中でホールドされているため、その心配が無いのです。

今回の靴もしかり古き良き時代の靴には、まだまだ沢山の職人の意匠が隠されており、私の拙い文章により皆様に少しでも触れて頂ければ嬉しく思います。

次回は、昔の靴ならではの本物のヴィンテージスチールついてご紹介させていただきます。

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