チャン糸|ウェルト交換(リウェルト)で使う糸と手縫いの修理
オールソール(靴底交換)ではさまざまな工程を経て5~8種類の部材を交換し、釘と糸と糊で部材を留めます。
今回はその内の一つ糸。「チャン糸」についてです。
チャン糸と手縫い
オールソールでは縫い付ける箇所によって糸と縫い方を使い分けます。
現代の既成靴で手縫いが用いられてる靴は稀になります。しかしながら修理となると話は一転。たとえ機械(ミシン)で縫われていても、修理の際には手縫いで修理した方が良い箇所があります。
そして、この手縫いで修理した方が良い箇所を縫う糸は「チャン糸」と呼ばれ靴職人の手によって作られます。
チャン糸とは?
チャン糸とは、その名の通りチャン(松脂)が塗られた糸です。このチャン糸は靴職人の手によって麻糸を撚り、撚った麻糸に溶かしたチャン(松脂)を擦り込んで作ります。
こうして作られたチャン糸は強度が増すと共に、縫うときの摩擦(熱)によって瞬間的にチャンが溶け、再度固まることでチャンが接着剤のような役割をはたすため、一縫いごとに糸と部材が固定されます。
故に、靴職人の手によって作られたチャン糸は切れにくく、万が一切れたとしてもチャンによって一縫いごとに固定されてるのでチャン糸が簡単にそのままほつれることはありません。
チャン糸を使う箇所とその理由
オールソールでは、縫い付ける箇所によって使用する糸と縫い方を使い分けます。
チャン糸は主にウェルト交換(リウェルト)の際に、ウェルトとアッパーと中底(又はリブテープ)の3つを重ねて縫い付けるときに使います。
なお、ウェルトについては、「リウェルト」のページでご紹介させていただいてますのでご興味いただける方はご覧ください。
ウェルトはその後、本底(アウトソール)とも縫い付けられるので、チャン糸は分解すると見える釘同様、オールソールが完了すると外観からは見えない糸となります。
ウェルト交換(リウェルト)でチャン糸を使う理由
画像からも分かるようにウェルトはアッパーと本底に挟まれてます。それ故、歩行時には上下両方向から引っぱられる負荷がかかってきます。
それに対して、ウェルトとアッパーと中底(又はリブテープ)は一本の糸のみで留められてます。故に、この箇所は市販の麻糸よりも部材を強固に固定できるチャン糸を使って縫い付けるのです。
そしてもう一つ。この箇所を縫うときは、たとえ既成靴が機械で縫われていたとしても、ウェルト交換(リウェルト)の際は、靴へダメージを与えないために手縫いで修理をします。
手縫いで修理した方が良い理由
手縫いとミシン縫いの違いの一つとして、手縫いは元の穴を拾って縫えるのに対して機械(ミシン)は元の穴を拾って縫うことができません。
ウェルト交換(リウェルト)をする際には、既にアッパーと中底(又はリブテープ)に元々縫われていた穴が開いてます。そこに新しく違う穴を開けて縫ってしまうと穴同士が繋がってしまうリスクが生じます。
故に、ウェルト交換(リウェルト)は元の穴を拾って縫える手縫いで修理した方が良く、より強く言うと「手縫いでなければいけない」とも言えます。
なお、ウェルト交換(リウェルト)の手縫いは「すくい縫い」と言う縫い方をするのですが、手縫いとミシン縫いでは縫い方が変わってきます。
機械の種類にもよりますが、ミシン縫いは1本の糸で縫い付けます。そのため、万が一糸が切れるとそのままほつれてしまうことがあります。
一方、手縫いは2本の糸で「交差させて」縫い付けます。2本の糸を交差させることで、万が一糸が切れたとしても「交差」してる箇所で一度止まるので、そのまま簡単にほつれてしまうことはありません。
さらに、チャン糸で縫うことで2本の糸がチャンで固められるため、万が一糸が切れてもほどけず、そのまま靴を履き続けることができます。言わば、手縫いとチャン糸で二重の保険をかけてる形になります。
素手ですくい縫い
余談ですが、すくい縫いは、一針一針しっかりと締めつけて縫っていかなければいけません。これは、締め付けがあまいと靴を履いてるうちに糸がだんだんと緩んできて靴底が浮いてきてしまうからです。
そのため、締め付ける際にチャン糸で指を切らないよう指サックや手袋をつけて手を保護るのですが私は素手で縫います。これは、手を保護することで手の微妙な感覚にズレが生じてしまうからです。
素手で縫うことで、糸の微妙な感覚が手に伝わり、一針一針、均一に糸を締めて縫うことができます。