チャネル|靴底のステッチの糸切れを防ぐチャネル仕上げ
オールソール(靴底交換)ではさまざまな工程を経て5~8種類の部材を交換し、釘と糸と糊で部材を留めます。
今回は工程の一つ、「チャネル」についてです。
チャネル
革底を見ると糸が縫われてる箇所に浅い溝が彫られてると思います。この溝のことを、日本の昔の靴職人は「ドブ」と呼びますが、近年では欧米同様「チャネル」と言う言葉で聞く機会の方が多いかと思います。
このチャネルは、製造過程で靴底を縫う際の目印として彫られるのですが、同時に靴底の糸(ステッチ)が地面に摩れて切れしてしまうことを防止する役割を担っており、ポイントはチャネルを彫る深さにあります。
こんな経験ありませんか?
靴底の糸が切れてしまって、靴底が浮いて音が鳴ったり、場合によっては靴底が剥がれてしまった。なんて経験をした人もいるかと思います。
その際は、靴底のチャネルを見てください。きっと、靴底が摩り減って、糸が切れた箇所のチャネルが浅くなってるかと思います。もう一つ付け加えると、糸切れした箇所はつま先部分になるかと思います。
チャネルの深さが大事な理由
糸が地面に摩れないよう革底にはチャネルが掘られますが、靴底がすり減るのと平行して彫られたチャネルも浅くなっていきます。そのため、必然と靴底の糸も地面に摩れてしまい糸切れの原因となります。
故に、靴底がすり減っても糸が地面に摩れないよう、チャネルはあらかじめ深めに掘っておくことが大切になります。
既成靴のチャネル
既成靴では各ブランドなどによって、チャネルの深さはバラバラです。中には最初っから、糸が地面に触れてしまってる状態の靴も結構多く、チャネルの意味があまりないのでは?と思う靴も珍しくありません。
では、なぜチャネルが深く掘られないのか?一つの理由として、製造過程で彫られるチャネルは糸を縫う際の目印として彫られるからです。
靴底を縫うときは、目印として彫られたチャネルに沿って縫いをかけるのですが、この目印としてのチャネルはわざわざ深く彫らなくても浅いチャネルで十分目印となるのです。
故に、糸を縫う目印として彫られるチャネルと、糸が摩れないように糸切れ防止として彫られるチャネルの深さには違いがあり、各既成靴によってもチャネルの深さが異なるのです。
オールソールのチャネル|革底
オールソール交換では、糸を縫う目印のチャネルの深さから、更に彫る作業を数回繰り返し、一般的なチャネルの深さよりも数ミリ深く掘るようにしてます。
こうすることで靴底がすり減っても、チャネルを深く彫った分糸が地面に摩れることはないのでステッチの糸切れがしにくくなります。
余談ですが、革底にチャネルを彫る際には専用の道具もあり、技術的なことはあまり必要ありません。どちらかと言うと力仕事で、どれだけ手間をかけるか?(何回掘るか?)でチャネルの深さが決まってきます。
オールソールのチャネル|ゴム底
通常、チャネルは革底にのみ彫られ、ゴム底(ラバーソール)には彫られません。
では、なぜゴム底(ラバーソール)にはチャネルが彫られないのか?一つの理由として、ゴム底(ラバーソール)の場合はチャネルを掘る道具がないからです。…と思います。
正直なところ明確な理由が分からず、ずっと不思議に思ってたので当店では独自に靴職人の道具の一つ革包丁を使ってゴム底(ラバーソール)にもチャネルを掘るようにしています。
こうすることで糸が地面に摩れなくなるので、糸切れのご経験をされた方や仕様にこだわる方ですと、ゴム底にチャネルを彫るために、わざわざ遠方からオールソールの靴をお持ちいただくこともあります。
なので、これをきっかけにゴム底(ラバーソール)にもチャネルを掘る文化が日本独自に普及したらいいなとも密かに思っています(笑)
チャネル仕上げの種類
一般的なチャネルはオープンチャネルなどと呼ばれ、糸の縫い目(ステッチ)が見える仕上げになりますが、靴底から糸が見えないようにするチャネル仕上げもあります。
ヒドゥン・チャネル
ヒドゥンチャネルは、靴の横側(コバ)から革包丁で薄く切れ込みを入れ、切れ込みを入れたところにチャネルを掘って糸を縫います。
縫い終わったら、切れ込みを入れた個所を再び閉じて、縫い目(ステッチ)を隠すチャネル仕上げになります。
ヒドゥンチャネルは、オープンチャネルよりも手間がかかるチャネル仕上げで、通常既成靴では高級紳士靴で見られるチャネルになります。
メスチャネル
メスチャネルは、革包丁でチャネル(メス)を入れて、そのチャネルを無理矢理広げて縫いをかけます。
縫い終わったら無理矢理広げたチャネルを再び無理矢理閉じると縫い目が隠れて一本の線のようになります。
メスチャネルは、あまりお目にかかることのないチャネル仕上げになりますが、J.M.ウェストンなどで見られるチャネルになります。
ヒドゥンチャネルやメスチャネルにはそれぞれメリット、デメリットがありますので、ヒドゥンチャネルとメスチャネルについては、またあらためて時間があるときにご紹介できればと思います。