底付師のオールソール工房

昭和三十六年
初代店主 佐藤正利
平成二十三年
二代目店主 村上塁
ボディービルダーのダイアナのサンダル

ボディビルダーのサンダル(ダイアナ)のカスタム修理

ダイアナの「ボディビルダー協会推奨コンテスト用サンダル」のカスタム修理です。

ダイアナは戦後の日本婦人靴業界を牽引してきたブランドと言っても過言ではありません。

紳士靴とは比べるに値しないほど有為転変の婦人靴業界、出てきては消えるブランドは数多く‥その中で戦後から現在まで第一線で活躍する数少ないブランドの一つです。

老舗ブランドですから展開している靴の中には特殊な靴もあり、今回の女性ボディビルダー用サンダルもその内の一つです。

ゴールド色の本底周りとピンヒール、そしてストラップがスケルトンであるのは、スポット光が当たるステージ上で鍛え抜かれた肉体を邪魔することなく魅せるためであり、同時にヒールを履くことで男性には出せない女性特有のラインを演出するためです。

しかし、今回のサンダルに使われている木型が一般女性の足の平均値からおこされた木型のため、ボディビルをしている女性の中には靴が合わずストラップの締付けにより鬱血したり、食い込みにより出血したりで100%コンテストに集中できず不発に終わる方もいるそうです。

これはボディビルをされている女性の筋肉量が一般女性よりも多いことで、必然的に足にかかる荷重も大きくなり、ウィズや甲周りが一般女性より大きくなるからです。

今回のお客様も全日本選手権に出場される選手ゆえ、筋肉量が多く第一中足趾節関節包と第五中足趾節関節包がストラップに収まりきらず、ストラップに食い込んでしまい見るからに痛そうでした。

さらにポージングの際に、ハイヒールのため前足部で踏ん張りをきかせるのですが、靴底が滑ること、ストラップが細く足に対してのホールド力が乏しいこと、中敷きが合皮(ビニール)のために汗を吸わず滑ってしまい踏ん張りがきかないこと、前足部下に入っている元々のクッション材が固い上に入りが浅く足裏が痛いこと、ヒールの高さが日々のトレーニング用のサンダルよりも高くグラつくこと‥等々、悩みがぎっしり、まるで修理界の宝石箱や~・・・っと…━━━ΣΣΣ≡┏|*´・Д・|┛

そこで、一旦靴をバラしてストラップと同素材の塩化ビニルをレーザーにより切り出し、それを私が革包丁により手直しをして太く踏ん張りに耐えうるストラップを作って、一旦仮止めをした上でお客さまに履いていただく。

この作業を何回か繰り返してお客さまの好みの形状・場所・締め付けを調べた上で初めて本止めに入る。やっていて思ったのですが何だかビスポーク(オーダー靴)の仮縫いのようで、正直木型無しでやる作業では無いなと思いました、頼るものが目見だけとは悩まし過ぎるでしょうw

また、上記した他の悩みは、豚革の肉面(肉が付いていた側の名称、毛が生えていた吟面側に比べ滑りにくい)を使って低反発スポンジを包んだもの(インソール)を貼ることで通気性と足当たりの良さを確保し、靴底に2㎜弱厚のラバーを張ってやることでグリップ力を上げ、ヒールの高さを練習用サンダルのヒールの高さまでカットすることでより練習と同じ環境でコンテストに挑めるようにさせて頂きました。

ちなみに、下の二枚目のお写真は靴のお渡し時に撮らせて頂いたもので少しきつそうに見えますが、ここから10㎏程絞って体を仕上げていきますのでそれを考慮に入れてのフィッティングとなります。

アスリートやアーティストの方達の靴をお直しさせて頂く度に思うのですが、彼らがもし靴職人の世界に入っていたなら私など足元にも及ばないでしょう。彼らの雰囲気や覚悟を間近で感じてしまうとそう思わずにはいられません。